香薬師の歌　会津八一

１　高畑にて（第１首）　　　　　　　　　たびびと　の　め　に　いたき　まで　みどり　なる　　　　　　　　　　　　　　　　　　ついぢ　の　ひま　の　なばたけ　の　いろ	歌の解説
２　高畑にて（第２首）　　　　　　　　　かうやくし　わが　をろがむ　と　のき　ひくき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひる　の　ちまた　を　なづさひ　ゆく　も	歌の解説
３　香薬師を拝して（第１首）　　　　　　　　　みほとけ　の　うつらまなこ　に　いにしへ　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やまとくにばら　かすみて　ある　らし	歌の解説
４　香薬師を拝して（第２首）　　　　　　　　　　　　　　　　　ちかづきて　あふぎ　みれども　みほとけ　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みそなはす　とも　あらぬ　さびしさ	歌の解説
５　奈良の新薬師寺を思ひいでて（第１首）　　　　　　　　　すめろぎ　の　おほき　めやみ　を　かしこみ　と　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とほき　きさき　の　たてましし　てら	歌の解説
６　奈良の新薬師寺を思ひいでて（第２首）　　　　　　　　　みほとけ　は　いまも　いまさば　わがため　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　まなこ　すがしく　まもらせ　たまへ	歌の解説
７　三月二十八日報ありちか頃その寺に詣でて拝観するに香薬師像のたちまち　　何者にか盗み去られて今はすでにおはしまさずといふを聞きて詠める（第１首）　　　　　　　　　をろがみて　きのふ　の　ごとく　かへり　こし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みほとけ　すで　に　なしと　いはず　やも	歌の解説
８　三月二十八日報ありちか頃その寺に詣でて拝観するに香薬師像のたちまち　　何者にか盗み去られて今はすでにおはしまさずといふを聞きて詠める（第２首）　　　　　　　　　みほとけ　は　いかなる　しこ　の　をのこら　が　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やど　にか　たたす　ゆめ　の　ごとく　に	歌の解説
９　三月二十八日報ありちか頃その寺に詣でて拝観するに香薬師像のたちまち　　何者にか盗み去られて今はすでにおはしまさずといふを聞きて詠める（第３首）　　　　　　　　　みほとけ　は　いまさず　なりて　ふる　あめ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わが　いしぶみ　の　ぬれ　つつ　か　あらむ	歌の解説
10　三月二十八日報ありちか頃その寺に詣でて拝観するに香薬師像のたちまち　　何者にか盗み去られて今はすでにおはしまさずといふを聞きて詠める（第４首）　　　　　　　　　いでまして　ふたたび　かへり　いませり　し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みてら　の　かど　に　われ　たちまたむ	歌の解説
11　三月二十八日報ありちか頃その寺に詣でて拝観するに香薬師像のたちまち　　何者にか盗み去られて今はすでにおはしまさずといふを聞きて詠める（第５首）　　　　　　　　　かどのへ　の　たかまどやま　を　かれやま　と　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そう　は　なげかむ　こゑ　の　かぎり　を	歌の解説