会津八一 山光集・鐘楼(六首)
                               昭和十八年三月
  山 光 集  「昭和15年6月から昭和19年4月に至る4年間に詠まれた246首。
         戦争時代を色濃く反映した作品も含まれる。戦中、戦後の価値観の
         転換によりこの集は3度出版され、歌の取捨が行われている」
  鐘   楼  「大仏讃歌10首を東大寺に献じた八一は、その後鐘楼にのぼる。
         当時は戦時下で全ての鐘は撞くことを禁じられていた。鳴らない鐘
         への淋しさと思いを6首詠う」
                                        会津八一の歌 索引
1 鐘楼(第1首)
三月十四日二三子とともに東大寺に詣づ客殿の廊下より望めば焼きて日なほ浅き嫩草山の草の根わづかに青みそめ陽光やうやく熙々たらむとすれども梢をわたる野風なほ襟に冷かにしてかの洪鐘の声また聞くべからずことに寂寞の感ありよりて鐘楼に到り頭上にかかれる撞木を撫しつつこの歌を作る
    な つき そ と かかれる かね を あふぎ みて    
                 うで さしのべつ なに す とも なく 
歌の解説
2 鐘楼(第2首)
    ひさしくも つか ざる かね を おしなでて     
                 こもれる ひびき きかず しも あらず
歌の解説
3 鐘楼(第3首)
    あさ に け に つく べき かね に こもりたる      
                 とほき ひびき を きか ざる な ゆめ  
歌の解説
4 鐘楼(第4首)
    ひびき なく かかる この かね みほとけ の   
                 おほき こわね と きく べき もの を  
歌の解説
5 鐘楼(第5首)
    ひさしくも つか ざる かね は はる の ひ に 
                 ぬくもりて あり ねむれる が ごと      
歌の解説
6 鐘楼(第6首)
    さをしか の みみ の わたげ に きこえ こぬ  
                 かね を ひさしみ こひ つつ か あらむ   
歌の解説
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