寒燈集・山中高歌 序 山田温泉は長野県豊野駅の東四里の谿間(けいかん)にあり山色浄潔にして嶺上の白雲を以て餐(くら)ふべきをおもはしむ かって憂患を懐きて此所(ここ)に来り遊ぶこと五六日にして帰れり 爾来(じらい)潭声(たんせい)のなほ耳にあるを覚ゆ 注 ・山田温泉 山田温泉は、長野県上高井郡高山村(旧国信濃国)にある温泉 信州高山温泉郷の中心的な温泉。八一は湊屋旅館(現風景館)に宿泊 ・谿間 谷あい、谷間 ・山色浄潔 山の姿がけがれが無くて清々しい ・嶺上の白雲 この語の出典を自註鹿鳴集に、山中隠居したに陶弘景(中国六朝、梁の人) に時の帝が山中の生活を問うた時に答えた詩からとある。 “「山中何アル所ゾ。嶺上ニハ白雲多シ。只ダ自ら怡悦(いえつ)スベキノミ。 持シテ君ニ寄スルニ堪ヘズ」といへり” ・餐ふ 食べる ・憂患 心配して心をいためること ・爾来 そのときより ・潭声 水が流れる音 大意 山田温泉は長野県豊野駅の東四里の谷あいにある。山の姿がけがれが無くて清々しく、嶺の上に漂っている白雲を見ていると食べることを思い出させるそんな世界だ。以前に心痛を抱いてこの山田温泉に来て、5、6日して帰った。その時以来、谷川の水音がずっと聞こえてくるように思える。 |