会津八一 寒燈集・雲際(七首)
                               昭和二十年四月
寒 燈 集




雲   際
(うんさい)
「寒燈集は昭和19年6月から21年6月までの212首を収録した歌集。敗戦を挟んだ苦難の時代に詠まれた。空襲による罹災、疎開、きい子の死、その後の孤独な生活が奈良の歌とは違う新しい歌境を作っている。とりわけ、下落合秋艸堂の自然を詠んだ歌(閑庭)、きい子への挽歌(山鳩、観音堂)、戦後の孤独な身辺の歌(炉辺、榾の火)は読む者の心に迫って来る」
「昭和20年4月30日、毎日新聞の写真部長・三浦寅吉の尽力で新聞社の飛行機に乗って新潟に疎開する。その時の7首。女人禁止のため、きい子は汽車を使っている」  
                                        会津八一の歌 索引
1 四月三十日三浦寅吉に扶けられて羽田より飛行機に乗りて
  わづかに東京を立ち出づ(第1首)
    おほぞら を わたれば さむき ころもで に 
                 せまりて しろき あめ の たなぐも        
歌の解説
2 四月三十日三浦寅吉に扶けられて羽田より飛行機に乗りて
  わづかに東京を立ち出づ(第2首)
    うらぶれて そら の くもま を わたり く と 
                 ふるさとびと の あに しらめ や も
歌の解説
3 やがて松ヶ崎なる新潟飛行場に着して(第1首)
    みやこべ を のがれ きたれば ねもごろに 
                 しほ うちよする ふるさと の はま      
歌の解説
4 やがて松ヶ崎なる新潟飛行場に着して(第2首)
    おり たてば なつ なほ あさき しほかぜ の 
                 すそ ふき かへす ふるさと の はま 
歌の解説
5 やがて松ヶ崎なる新潟飛行場に着して(第3首)
    わたり こし みそら はるけく しらくも の 
                 むれ たつ なか に いる こころ かも       
歌の解説
6 新潟の浜にて(第1首)
    ふるさと の はま の しろすな わかき ひ を 
                 ともに ふみ けむ とも を し ぞ おもふ   
歌の解説
7 新潟の浜にて(第2首)
    ふるさと の はまべ の をぐさ ふみ ゆかば 
                 けだし や あはむ わかき ひ の とも  
歌の解説
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