会津八一 寒燈集・松濤(五首)
                               昭和二十年十二月
寒 燈 集




松   濤
「寒燈集は昭和19年6月から21年6月までの212首を収録した歌集。敗戦を挟んだ苦難の時代に詠まれた。空襲による罹災、疎開、きい子の死、その後の孤独な生活が奈良の歌とは違う新しい歌境を作っている。とりわけ、下落合秋艸堂の自然を詠んだ歌(閑庭)、きい子への挽歌(山鳩、観音堂)、戦後の孤独な身辺の歌(炉辺、榾の火)は読む者の心に迫って来る」
「松濤とは松の梢を渡る風の音を波の音にたとえていう語。八一が疎開した丹呉家の庭には松が群立し、日本海から吹く風で松濤(松籟)がすざましかった。榾の火・5首に続く、孤独な八一の悲痛な叫びである」 
                                        会津八一の歌 索引
1 松濤(第1首)
    みゆき つむ たのも こえ きて ふるには の 
                 こぬれ とよもす わたつみ の かぜ       
歌の解説
2 松濤(第2首)
    くりやべ に ひと なき よは を ふき あれて 
                 うしほ に まがふ むらまつ の こゑ
歌の解説
3 松濤(第3首)
    ふるには の まつ の あらし を あらいそ の 
                 しほ の とよみ と きき あかし つつ      
歌の解説
4 松濤(第4首)
    すべ も なく やぶれし くに の なかぞら を 
                 わたらふ かぜ の おと ぞ かなしき 
歌の解説
5 松濤(第5首)
    みこしぢ の はて なる たゐ に やどり して 
                 くに の まほら の あやに こほし も     
歌の解説
inserted by FC2 system