会津八一 寒燈集・彩痕(五首)
                               昭和十九年六月
寒 燈 集




彩   痕
「寒燈集は昭和19年6月から21年6月までの212首を収録した歌集。敗戦を挟んだ苦難の時代に詠まれた。空襲による罹災、疎開、きい子の死、その後の孤独な生活が奈良の歌とは違う新しい歌境を作っている。とりわけ、落合秋艸堂の自然を詠んだ歌(閑庭)、きい子への挽歌(山鳩、観音堂)、戦後の孤独な身辺の歌(炉辺、榾の火)は読む者の心に迫って来る」
「法隆寺壁画作者を想って詠んだ5首。“一たび去ってはるかな彼方へゆく。名を残さず、心ゆくまで壁画を画いて去っていった仏師の態度こそ芸術において至り得た境であると自得した。緊迫した戦争のさ中における壁画と道人のひそやかな感応道交である。”(秋艸道人 會津八一の芸術 植田重雄著)」
                                        会津八一の歌 索引
1 法隆寺壁画の作者をおもひて(第1首)
    ひのもと の みてら の かべ に ゑがかむ と 
                 しほ の やほぢ を わたり こし ひと       
歌の解説
2 法隆寺壁画の作者をおもひて(第2首)
    いまさ ざる みこ を しぬびて しづか なる 
                 みてら とひ こし から の ゑだくみ      
歌の解説
3 法隆寺壁画の作者をおもひて(第3首)
    あはれ ひと こころ ゆたけき いとなみ を 
                 ここ に とどめて ゆくへ しらず も        
歌の解説
4 法隆寺壁画の作者をおもひて(第4首)
    ゆめ の ごと あり こし てら の かべ の ゑ に 
                 なほ さやか なる ふで の あと あはれ
歌の解説
5 法隆寺壁画の作者をおもひて(第5首)
    ほのか なる その かべ の ゑ に いくたび を 
                 われ たち くれて いで に けむ かも       
歌の解説
                   
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