会津八一 寒燈集・桜桃(八首)
                               昭和二十一年六月
寒 燈 集




桜   桃
「寒燈集は昭和19年6月から21年6月までの212首を収録した歌集。敗戦を挟んだ苦難の時代に詠まれた。空襲による罹災、疎開、きい子の死、その後の孤独な生活が奈良の歌とは違う新しい歌境を作っている。とりわけ、下落合秋艸堂の自然を詠んだ歌(閑庭)、きい子への挽歌(山鳩、観音堂)、戦後の孤独な身辺の歌(炉辺、榾の火)は読む者の心に迫って来る」
「新潟に活動の場を移した八一は、きい子の死から1年になろうとしているこの時期、新たな気持で桜桃8首を詠む。少年の心を取り戻した様な明るい歌である。この桜桃を最後に中條の生活を終え、新潟市の南浜に居を移す」 
                                        会津八一の歌 索引
1 桜桃(第1首)
    たうゑ す と ひと こぞる ひ を ひとり きて 
                 われ こもり をり あうたう の えだ に
歌の解説
2 桜桃(第2首)
    うらには の あさ の こぬれ に さぐり えし 
                 わが たなぞこ の くれなゐ の たま
歌の解説
3 桜桃(第3首)
    あうたう の えだ に こもりて わが ききし 
                 さつき の をだ の をとめら が うた 
歌の解説
4 桜桃(第4首)
    あうたう の えだ に のぼれば きこえ くる 
                 みづた の はて の やまばと の こゑ 
歌の解説
5 桜桃(第5首)
    あうたう の えだ の たかき に のぼり ゐて 
                 はるけき とも の おもほゆる かも
歌の解説
6 桜桃(第6首)
    のぼり ゐて わが はく たね の ひとつ づつ 
                 くさ に かくるる あうたう の えだ
歌の解説
7 桜桃(第7首)
    しげりは に こもる こぬれ の あけ の み の 
                 あな うらぐはし つゆ も ゆらら に  
歌の解説
8 桜桃(第8首)
    はごもれる このみ の あけ を さながらに 
                 そで さへ そめよ つゆ の まにまに 
歌の解説
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