法隆寺の歌　会津八一

１　法隆寺村にやどりて　　　　　　　　　いかるが　の　さと　の　をとめ　は　よもすがら　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きぬはた　おれり　あき　ちかみ　かも	歌の解説
２　御遠忌近き頃法隆寺村にいたりて（第１首）　　　　　　　　　うまやど　の　みこ　の　まつり　も　ちかづきぬ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　まつ　みどり　なる　いかるが　の　さと	歌の解説
３　御遠忌近き頃法隆寺村にいたりて（第２首）　　　　　　　　　いかるが　の　さとびと　こぞり　いにしへ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　よみがえる　べき　はる　は　き　むかふ	歌の解説
４　御遠忌近き頃法隆寺村にいたりて（第３首）　　　　　　　　　　　　　　　　　うまやど　の　みこ　の　みこと　は　いつ　の　よ　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いかなる　ひと　か　あふが　ざらめ　や	歌の解説
５　御遠忌近き頃法隆寺村にて（第４首）　　　　　　　　　みとらし　の　あづさ　の　まゆみ　つる　はけて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひきて　かへらぬ　いにしへ　あはれ	歌の解説
６　法隆寺の金堂にて（第１首）　　　　　　　　　おし　ひらく　おもき　とびら　の　あひだ　より　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はや　みえ　たまふ　みほとけ　の　かほ	歌の解説
７　法隆寺の金堂にて（第２首）　　　　　　　　　たち　いでて　とどろと　とざす　こんだう　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とびら　の　おと　に　くるる　けふ　かな	歌の解説
８　五重塔をあふぎみて　　　　　　　　　ちとせ　あまり　みたび　めぐれる　ももとせ　を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひとひ　の　ごとく　たてる　この　たふ	歌の解説
９　夢殿の救世観音に　　　　　　　　　あめつち　に　われ　ひとり　ゐて　たつ　ごとき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　この　さびしさ　を　きみ　は　ほほゑむ	歌の解説
10　病中法隆寺をよぎりて（第１首）　　　　　　　　　あまた　みし　てら　には　あれど　あき　の　ひ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　もゆる　いらか　は　けふ　みつる　かも	歌の解説
11　病中法隆寺をよぎりて（第２首）　　　　　　　　　うつしよ　の　かたみ　に　せむ　と　いたづき　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　み　を　うながして　み　に　こし　われ　は	歌の解説
12　病中法隆寺をよぎりて（第３首）　　　　　　　　　いたづき　の　まくら　に　さめし　ゆめ　の　ごと　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かべゑ　の　ほとけ　うすれ　ゆく　はや	歌の解説
13　病中法隆寺をよぎりて（第４首）　　　　　　　　　ひとり　きて　めぐる　みだう　の　かべ　の　ゑ　の　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほとけ　の　くに　も　あれ　に　ける　かも	歌の解説
14　病中法隆寺をよぎりて（第５首）　　　　　　　　　おほてら　の　かべ　の　ふるゑ　に　うすれたる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほとけ　の　まなこ　われ　を　み　まもる	歌の解説
15　病中法隆寺をよぎりて（第６首）　　　　　　　　　うすれ　ゆく　かべゑ　の　ほろけ　もろとも　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わが　たま　の　を　の　たえぬ　とも　よし	歌の解説
16　病中法隆寺をよぎりて（第７首）　　　　　　　　　ほろび　ゆく　ちとせ　の　のち　の　この　てら　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いづれ　の　ほとけ　あり　たたす　らむ	歌の解説
17　法隆寺東院にて（第１首）　　　　　　　　　ゆめどの　は　しづか　なる　かな　ものもひ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こもりて　いま　も　まします　が　ごと	歌の解説
18　法隆寺東院にて（第２首）　　　　　　　　　ぎそ　の　ふで　たまたま　おきて　ゆふかげ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おりたたし　けむ　これ　の　ふるには	歌の解説
19　十五日二三子を伴ひて観仏の旅に東京を出づ　　　　　　　　　やまと　には　かの　いかるが　の　おほてら　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みほとけ　たち　の　まちて　いまさむ	歌の解説
２０　法隆寺壁画の作者をおもひて（第１首）　　　　　　　　　ひのもと　の　みてら　の　かべ　に　ゑがかむ　と　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しほ　の　やほぢ　を　わたり　こし　ひと	歌の解説
２１　法隆寺壁画の作者をおもひて（第２首）　　　　　　　　　いまさ　ざる　みこ　を　しぬびて　しづか　なる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みてら　とひ　こし　から　の　ゑだくみ	歌の解説
２２　法隆寺壁画の作者をおもひて（第３首）　　　　　　　　　あはれ　ひと　こころ　ゆたけき　いとなみ　を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ここ　に　とどめて　ゆくへ　しらず　も	歌の解説
２３　法隆寺壁画の作者をおもひて（第４首）　　　　　　　　　ゆめ　の　ごと　あり　こし　てら　の　かべ　の　ゑ　に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なほ　さやか　なる　ふで　の　あと　あはれ	歌の解説
２４　法隆寺壁画の作者をおもひて（第５首）　　　　　　　　　ほのか　なる　その　かべ　の　ゑ　に　いくたび　を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　われ　たち　くれて　いで　に　けむ　かも	歌の解説